東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)140号 判決 1980年6月02日
東京都新宿区百人町一丁目五番六-三〇七号
原告
三信観光株式会社
右代表者代表取締役
岡沢まき
同
山下輝治
右訴訟代理人弁護士
安達十郎
東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号
被告
淀橋税務署長
右訴訟代理人弁護士
真鍋薫
右指定代理人
佐木正男
同
三上正生
同
関川哲夫
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1 被告が昭和四八年四月二八日付で原告の昭和四四年八月九日から昭和四五年七月三一日までの事業年度分及び昭和四五年八月一日から昭和四六年七月三一日までの事業年度分の法人税についてした各更正並びに各事業年度分についての過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二、被告
主文と同旨の判決
第二、原告の請求原因
一、原告はクラブ「アルザス」、「キヤロツト」及びバー「モンテ」の経営などを業とするいわゆる白色申告法人であるが、原告の昭和四四年八月九日から同四五年七月三一日までの事業年度(以下「昭和四五年七月期」という。)分及び昭和四五年八月一日から同四六年七月三一日までの事業年度(以下「昭和四六年七月期」といい、昭和四五年七月期と合わせて「本件各事業年度」という。)分の法人税について原告がした各確定申告、これに対して被告がした各更正(以下「本件各更正」という。)並びに各事業年度分についての過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件各決定」という。)の経緯は別表一記載のとおりである。
二、しかしながら、本件各更正は原告の本件各事業年度の所得金額をいずれも過大に認定したものであるから違法であり、従つて本件各更正を前提としてされた本件各決定も違法である。また、前記重加算税の各賦課決定は、後記第四の二の4記載の理由によつても違法である。
よつて、原告は本件各更正及び本件各決定の取消しを求める。
第三、原告の請求原因に対する被告の認否及び主張
一、原告の請求原因に対する被告の認否
請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。
二、被告の主張
1 原告の本件各事業年度の所得金額及びその算出根拠は次のとおりであり、本件各更正はいずれも右各所得金額の範囲内であるから適法である。
(昭和四五年七月期)
(一) 原告の昭和四五年七月期の所得金額は別表二記載のとおり二、〇八〇万二、一二一円であり、その詳細は次のとおりである。
(二) 売上計上漏れ
(1) 推計の必要性
被告所部係官は、本件各更正に係る調査において、原告の帳簿には一応の記載がなされているが、現金売上については三建貿易株式会社等からの売上金額を帳簿に記載せずにその一部を大洋信用金庫本店及び平和相互銀行新宿支店に高砂寿雄名義の仮名の普通預金口座を、平和相互銀行新宿支店に山口弘二名義の普通預金口座(以下これらの預金口座を「別口預金」という。)を設定して入金していることを確認した。そこで同係官は本件各事業年度の売上金額を確定するためには売上の原始記録である売上伝票を調査する必要があると認め、その提示を求めたが、原告の代表取締役山下輝治等は「売上伝票はすべて破棄した。」「帳簿に記載しなかつた売上金、国に納付しなかつたホステス等から源泉徴収した所得税を一時手許に置き必要に応じて流用し、その残りの金額を別口預金に預け入れた。」等と申し立て、申告売上金額に記帳漏れのあることは認めたが、その脱漏した金額については具体的な回答をなさず、原告の売上金額を正確に把握するための資料も提示しなかつた。そこで被告は実額により売上金額を正確に把握することは不可能であると認め、以下の方法により売上金額を推計したものである。
(2) 推計の方法
原告の経営する「キヤロツト」、「アルザス」両店のホステスに支給する歩合給が、ホステスがその月に入金した顧客に対する請求金額の基礎となる飲食代金の額に基づき別表四に記載した支給率表に従つて算出されているので、歩合給の支給額(原告の記帳額)から歩合給支給の対象となつた売上に係る飲食代金の額を算定し、右飲食代金の額に歩合給支給の対象とならなかつた売上に係る飲食代金の額を含めた総飲食代金の額(原告の記帳額)に対する総売上金額(原告の記帳額)の割合を乗じて歩合給支給の対象となつた売上金額(掛売上と現金売上の合計額)を算出し、右金額に掛売上のうち歩合給支給の対象となつた売上金額(被告の算出額)に対する掛売上金額(原告の記帳額)の割合を乗じて歩合給支給の対象とならなかつたものを含めた売上金額(「アルザス」、「キヤロツト」両店分)を算出し、これに原告の記帳額である「モンテ」の売上金額を加算して、原告の総売上金額を求めた。
(3) 売上金額の算出
<1> 「アルザス」分
別紙計算書1記載のほか次のとおりである。
イ 歩合給支給対象期間
昭和四四年一一月六日から同四五年七月一〇日まで
ロ 歩合給支給の対象となつた飲食代金の額
歩合給の計算期間は各月の一一日から翌月の一〇日までの間となつているので、歩合給の計算期間と原告の事業年度を一致させるために、昭和四五年七月一一日から同年八月一〇日までの期間の歩合給支給の対象となつた飲食代金の額について日数あん分の方法により同年八月一日から同月一〇日までの期間に相当する金額を算出し、これにより算出された金額を右昭和四五年七月一一日から同年八月一〇日までの期間の飲食代金の額から控除して同年七月一一日から同月三一日までの期間の飲食代金の額を算出した。
ハ 歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち、掛売上に係るものの額
昭和四五年七月一一日から同月三一日までの額は、前記ロと同様の方法により算出した。
<2> 「キヤロツト」分
別紙計算書2記載のほか次のとおりである。
イ 歩合給支給対象期間
昭和四四年八月一日から同四五年七月一五日まで
ロ 歩合給支給の対象となつた飲食代金の額
歩合給の計算期間は各月の一六日から翌月の一五日までの間となつているので、歩合給の計算期間と原告の事業年度を一致させるために、昭和四五年七月一六日から同年八月一五日までの歩合給支給の対象となつた飲食代金の額について日数あん分の方法により同年八月一日から同月一五日までの期間に相当する金額を算出し、これにより算出された金額を右昭和四五年七月一六日から同年八月一五日までの期間の飲食代金の額から控除して同年七月一六日から同月三一日までの期間の飲食代金の額を算出した。
ハ 歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち、掛売上に係るものの額
昭和四五年七月一六日から同月三一日までの額は前記ロと同様の方法により算出した。
ニ 掛売上金額の年額換算
掛売上金額六、七七六万五、四〇九円は、昭和四四年一二月一日から同四五年七月三一日までの原告の記帳額であるため、年額換算の必要な算式においては右金額に八分の一二を乗じて年額を算出した。
(4) 売上脱漏額の算出
別紙計算書3記載のとおりである。
(三) 計上漏れ預金利息
大洋信用金庫本店及び平和相互銀行新宿支店の高砂寿雄名義の普通預金の預金利息である。
(四) 交際費等の損金不算入
(1) 原告が厚生費科目で損金に計上した一七万五、五四六円は原告の事業に関係のある者をゴルフで接待するのに要した費用であり、厚生費科目で損金に計上した一一〇万六、六八七円と募集費科目で損金に計上した二六四万七、三〇三円との合計三七五万三、九九〇円は原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用及び原告の役員等が他人の経営するクラブ、キヤバレー等において当人らの慰安のために飲食した費用であるから、その合計三九二万九、五三六円は租税特別措置法(昭和四五年七月期については昭和四五年法律第三八号による改正前のもの、昭和四六年七月期については昭和四六年法律第二二号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第六三条第五項に規定する交際費等(以下「交際費等」という。)に該当する。
(2) そこで、原告の申告額三九四万二、三〇六円と調査により交際費等と判明した前記三九二万九、五三六円との合計七八七万一、八四二円について、昭和四五年七月期終了の日における資本金三〇〇万円を基礎として措置法第六三条第六項により同条第一項本文に定める損金算入限度額四〇〇万七、五〇〇円を算出し、その超過額三八六万四、三四二円について損金不算入額二三一万八、六〇五円を算出し、右金額を益金に加算した。
(五) 支払利息損金認容
原告が帳簿に記載しないで運用していた新宿共栄株式会社からの借入金二〇〇万円に対する支払利息七万七、二八〇円を損金として認容する。
(昭和四六年七月期)
(六) 原告の昭和四六年七月期の所得金額は別表三記載のとおり三、九二七万四、六八五円であり、その詳細は次のとおりである。
(七) 売上計上漏れ
(1) 売上金額を推計する必要性及びその方法は前記(二)の(1)、(2)に述べたとおりである。
(2) 売上金額の算出
<1> 「アルザス」分
別紙計算書4記載のほか次のとおりである。
イ 歩合給支給対象期間
昭和四五年七月一一日から同四六年七月一〇日まで
ロ 歩合給支給の対象となつた飲食代金の額及びそのうち掛売上に係るものの額
原告の売上金額が昭和四五年七月期よりも昭和四六年七月期のほうが増加しているので、歩合給支給の対象となつた飲食代金の額及びそのうち掛売上に係るものの額を算出するにあたり原告に有利に昭和四五年七月一一日から同月三一日までの期間と同四六年七月一一日から同月三一日までの期間を同額として計算した。
<2> 「キヤロツト」分
別紙計算書5記載のほか次のとおりである。
イ 歩合給支給対象期間
昭和四五年七月一六日から同四六年七月一五日まで
ロ 歩合給支給の対象となつた飲食代金の額及びそのうち掛売上に係るものの額
前記「アルザス」分と同様、昭和四五年七月一六日から同月三一日までの期間と同四六年七月一六日から同月三一日までの期間を同額として計算した。
(3) 売上脱漏額の算出
別紙計算書6記載のとおりである。
(八) 計上漏れ預金利息
大洋信用金庫本店の高砂寿雄名義の普通預金の預金利息二、三三五円及び平和相互銀行新宿支店の山口弘二名義の普通預金の預金利息一、八八三円の合計額である。
(九) 交際費等の損金不算入
(1) 原告が福利厚生費科目で損金に計上した五三万八、〇九四円は原告の事業に関係のある者をゴルフで接待するのに要した費用であり、福利厚生費科目で損金に計上した一万九、四五〇円と募集費科目で損金に計上した五五九万一、五〇六円との合計五六一万〇、九五六円は原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用及び原告の役員等が他人の経営するクラブ、キヤバレー等において当人らの慰安のために飲食した費用であり、その合計六一四万九、〇五〇円は交際費等に該当する。
(2) そこで、原告の申告額三八六万〇、八〇八円と調査により交際費等と判明した前記六一四万九、〇五〇円との合計一、〇〇〇万九、八五八円について、昭和四六年七月期終了の日における資本金三〇〇万円を基礎として措置法第六三条第一項本文に定める損金算入限度額四〇〇万七、五〇〇円を算出し、その超過額六〇〇万二、三五八円について基準年度の交際費等の額七八七万一、八四二円を基にして同条第一項第二号により同項本文に定める損金不算入額四二九万九、一八四円を計算し、右金額を益金に加算した。
計上漏れ仕入金額
原告が株式会社塩田屋から偽名で仕入れた酒類等の価格一二五万五、五四〇円を損金として認容する。
支払利息損金認容
原告が帳簿に記載しないで運用していた新宿共栄株式会社からの借入金二〇〇万円に対する支払利息一二万七、一二〇円を損金として認容する。
未納事業税損金認容
原告の昭和四五年七月期の所得金額に対する事業税の未納額五一万一、二二〇円を損金として認容する。右金額の算出根拠は別紙計算書7記載のとおりである。
2 重加算税の各賦課決定について
原告は売上伝票を破棄したり、また帳簿に記載しなかつた売上金額の一部を別口預金に入金し、偽名で仕入れた酒類等の支払代金にあてるなどして取引の一部を隠ぺい又は仮装していた事実があつたので、被告は国税通則法第六八条第一項の規定により重加算税の各賦課決定をした。
そして、取引の事実を隠ぺい又は仮装したことによる所得金額は、昭和四五年七月期については計上漏れ売上金額と計上漏れ預金利息の和から支払利息損金認容額を減じた額であり、昭和四六年七月期については計上漏れ売上金額と計上漏れ預金利息の額の和から計上漏れ仕入金額と支払利息損金認容額の和を減じた額であるところ、本件各事業年度分の重加算税の賦課決定はいずれも右各金額を下廻る金額についてなされたものであるから適法である。
第四、被告の主張に対する原告の認否及び主張
一、被告の主張に対する認否
被告の主張1(一)のうち、申告所得金額、計上漏れ預金利息の額及び支払利息損金認容額は認めるが、その余は争う。
同1(二)(1)のうち、三建貿易株式会社等からの売上金額を帳簿に記載しなかつたこと、脱漏した金額について具体的な回答をなさず、原告の売上金額を正確に把握するための資料も提示しなかつたことは否認し、実額により売上金額を正確に把握することは不可能であつたとの主張は争うが、その余の事実は認める。
同1(二)(2)のうち、別表四記載の支給率表が存在したこと、歩合給がホステスの入金する飲食代金の額に基づいて支給されていたことは認める。
同1(二)(3)のうち、歩合給支給対象期間、歩合給支給額、歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち掛売上に係るものの額、原告の帳簿に記載された掛売上金額、現金売上金額、掛売分飲食代金額及び現金売分飲食代金額並びに「キヤロツト」の昭和四五年七月期の掛売上金額の年額換算の方法は認めるが、その余は争う。なお、「キヤロツト」の昭和四四年八月一日から同月八日までの売上が原告の昭和四五年七月期に属することは認める。
同1(二)(4)のうち、「モンテ」の売上金額、原告の申告に係る売上金額は認めるが、その余は争う。
同1(三)は認める。
同1(四)のうち、原告が厚生費科目で損金に計上した一七万五、五四六円が交際費等に該当すること、厚生費科目で損金に計上した一一〇万六、六八七円及び募集費科目で損金に計上した二六四万七、三〇三円が原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用及び原告の役員等が他人の経営するクラブ等において飲食した費用であること、原告が申告した交際費等の額並びに交際費等の額が被告主張のように七八七万一、八四二円とされた場合に損金不算入額が二三一万八、六〇五円となることは認めるが、その余は争う。
同1(五)は認める。
同1(六)のうち、申告所得金額、計上漏れ預金利息の額及び支払利息損金認容額は認めるが、その余は争う。
同1(七)(2)のうち、歩合給支給対象期間、歩合給支給額、歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち掛売上に係るものの額並びに原告の帳簿に記載された掛売上金額、現金売上金額、掛売分飲食代金額及び現金売分飲食代金額は認めるが、その余は争う。
同1(七)(3)のうち、「モンテ」の売上金額、原告の申告に係る売上金額は認めるが、その余は争う。
同1(八)は認める。
同1(九)のうち、原告が福利厚生費科目で損金に計上した五三万八、〇九四円が交際費等に該当すること、福利厚生費科目で損金に計上した一万九、四五〇円と募集費科目で損金に計上した五五九万一、五〇六円が原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用及び原告の役員等が他人の経営するクラブ等において飲食した費用であること、原告が申告した交際費等の額並びに交際費等の額が被告主張のように一、〇〇〇万九、八五八円とされた場合に損金不算入額が四二九万九、一八四円となることは認めるが、その余は争う。
同1 のうち、原告が株式会社塩田屋から酒類等を仕入れたことは認めるが、その余は争う。
同1 は認める。
同1 は争う。
同2のうち、売上伝票を破棄したこと、売上金額に記帳漏れがあつたこと、売上金額の一部を別口預金に入金していたことは認めるが、その余は争う。
二、原告の主張
1 推計の必要性について
原告の帳簿記載はおおむね正確であり、その記載と原告の代表取締役等に対する調査により売上金額を実額で把握することは十分可能であつたから、売上金額を推計する必要性はなかつた。
2 推計の合理性について
被告が主張する推計方法は、以下に述べるとおり原告の売上金額を算出する方法として合理性を有しない。
(一) 「アルザス」、「キヤロツト」両店のホステスに支給する歩合給は被告のいう支給率表のとおり支給されていたものではない。右の表はホステスに支給する歩合給の最低限を示すものであり、成績が向上した者、長い間店にとどまつて勤務して欲しい者に対しては支給率表を超える奨励金を支給率表による歩合給に加算して一括して歩合給として支給していた。奨励金の支給対象者は、「アルザス」においては毎月一〇日から一四日の間に、「キヤロツト」においては毎月一五日から二〇日の間において、社長と支店長が合議したうえ決定していたが、その人数は、「アルザス」においては五名前後、「キヤロツト」においては一〇名前後であり、その支給額は平均すると支給率表による場合の額に約二〇パーセントを加算した額になつていた。従つて、現実の歩合給の支給額に支給率表の支給率を適用して売上金額を逆算するならば、それによつて算出される売上金額は現実の売上金額を大きく超えるものとなり、被告の主張する推計方法は何ら合理性を有しない。
(二) 「アルザス」、「キヤロツト」両店における総売上金額に対する現金売上金額の比率はおよそ一三パーセント前後において一定しているのであるが、被告の推計結果に基づくと右の比率は別紙計算書8記載のとおりとなり、その推計方法が不合理であることは明瞭である。
3 交際費等について
クラブの売上は掛売上を主体としているのでホステスは経験豊富な者でなければ勤まらない。従つて、クラブホステスの募集は新聞広告では不可能であり、社内の者が他人の経営するクラブ、キヤバレー等に出向いて飲食し、他店のホステスとの交際を広げておき、自店のホステスが退社したときは直ちに他店のホステスを自店に採用して欠員を補充できるようにしておかなければ経営は成り立たない。とりわけ、本件各事業年度頃はホステス争奪戦の激しい時期であつたから右のような配慮は特段に必要であつた。それ故、ホステス確保のために社内の者が他店で飲食した費用である昭和四五年七月期の二六四万七、三〇三円及び昭和四六年七月期の五五九万一、五〇六円は募集費としてその損金算入が認められるべきである。
4 重加算税の賦課決定について
別口預金は別個の主体によつて経営されていた「アルザス」、「モンテ」と「キヤロツト」を原告が経営することとした際、原告の代表取締役山下輝治個人が経営していた「キヤロツト」に係る新宿共栄株式会社からの借入金二〇〇万円を経理手続上原告の負債としなかつたため、これを別途返済するため便宜上設けたものにすぎず、取引の事実を故意に仮装又は隠ぺいしたものではない。
第五、原告の主張に対する被告の反論
原告の主張2(一)に対して
原告は、原告の経営する「アルザス」及び「キヤロツト」の両店においては、歩合給に奨励金を加算し一括して歩合給として支給していたと主張する。
しかしながら、バー、クラブ及びキヤバレー等の業界における歩合給は、本来顧客に対する売掛金の回収を早期に、かつ完全に行うことを目的とし、その方策として、顧客に対する売掛金の責任回収制を実施している場合に、一定の期間内に売掛金を回収した金額及び現金売上金額とに応じ、あらかじめ定められた割合を乗じた額を支給するものである。一方、奨励金は、ホステスの勤労意欲の向上と売上の増加を図るために、月間売上金額の上位のホステス数名に一定額を支給する売上賞、又は一定期間の無欠勤者等に一定額を支給する皆勤賞等をいうのである。すなわち、その報酬の実態は、歩合給は一種の売上戻しであり、奨励金は報奨金である。従つて、両者は報酬としての性格が全く異なるものであり、性格の異なる歩合給と奨励金とを一体化して支給することは経営効率上効果的な方法ではなく、これらの業界においては採用されていないのが実状である。
また、右主張は原処分時において被告所部の係官に対して原告側が「歩合給は、顧客から入金した飲食代金の額に一定率を乗じた額が支給されるものである。」と申し立てた事実とも相違している。
さらに、原告の社長とその支配人とが合議の上成績が向上した者、長い間店にとどまつて勤務して欲しい者等特定の者に対してだけ規定の歩合給の額に上積みして支給していたとするならば、それ以外のホステスの勤労意欲を減退させる等の障碍を生ずることは明らかであり、かえつて奨励金を支給する目的と相反する結果を招くので、かような方法をとらないことは業界の常識である。従つて、原告の主張は失当といわざるを得ない。
第六、証拠関係
一、原告
1 提出した書証
甲第一号証、第二号証及び第三号証の一ないし四
2 援用した証言等
証人渡辺忠男の証言及び原告代表者山下輝治の尋問の結果
3 丙号証の認否
丙第一〇号証の二及び第一六号証の一、二の成立は認める。第六号証の四ないし七、第七号証の一、二、第九号証の四、五、第一四号証の一ないし一〇及び第一五号証の一ないし四の原本の存在及び成立は認める。第一〇号証の四、五、第一二号証及び第一三号証の一、二の原本の存在及び成立は知らない。第七号証の三、第八号証、第九号証の六、第一〇号証の三及び第一一号証の官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。その余の丙号各証の成立は知らない。
二、被告
1 提出した書証
丙第一号証ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし九、第七号証の一ないし三、第八号証、第九号証の一ないし六、第一〇号証の一ないし五、第一一号証、第一二号証、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし一〇、第一五号証の一ないし四及び第一六号証の一、二(第六号証の四ないし七、第七号証の一、二、第九号証の四、五、第一〇号証の四、五、第一二号証、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし一〇及び第一五号証の一ないし四は写をもつて提出)
2 援用した証言
証人土屋健吾及び同肥後達男の各証言
3 甲号証の認否
甲第一、二号証の成立は知らない。第三号証の一の成立は認める。第三号証の二のうち、二行目の「48」「4」「2」、四行目の「各」、五行目、六行目の各記載及び末尾の「48」「4」「2」の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。第三号証の三のうち、一行目の「48」「4」「2」の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。第三号証の四のうち、「税、180,200」「税、5,048,000」「源」の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。
理由
一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。
二、そこで、本件各更正が原告の本件各事業年度の所得金額を過大に認定したものであるか否かについて検討する。
1 まず、被告は本件各事業年度の売上金額を推計によつて算出しているので、推計の必要性について検討する。
原告の申告売上金額に記帳漏れがあつたこと、原告が別口預金を設定し売上金額の一部を入金していたこと、本件各更正に係る調査の際原告の代表取締役山下輝治等が被告所部係官に対し「売上伝票はすべて破棄した。」「帳簿に記載しなかつた売上金、国に納付しなかつたホステス等から源泉徴収した所得税を一時手許に置き、必要に応じて流用し、その残りの金額を別口預金に預け入れた。」等と申し立てたことについては当事者間に争いがなく、証人土屋健吾の証言によつて真正に成立したと認められる丙第三号証及び同証言によれば、本件各更正に係る調査の際総勘定元帳及び売掛台帳の提示はあつたものの本件各事業年度分の売上伝票等実際の売上金額を把握する資料の提示はなく、売上脱漏額の明確な回答もなかつたことが認められる。右争いのない事実及び右認定の事実によれば、本件各更正当時原告の本件各事業年度の売上金額を実額により算出することは到底不可能であつたというべきであるから、被告が推計によつて売上金額を算出し本件各更正を行つたことは何ら違法でないし、本訴においても実額によつて原告の本件各事業年度の売上金額を把握するに足りる資料はないのであるから推計によらざるをえないというべきである。
なお、原告は原告の帳簿記載はおおむね正確であり、その記載と原告の代表取締役等に対する調査により売上金額を実額で把握しえた旨主張するが、前記認定の事情のもとにおいては右主張が失当であることは明らかである。
2 そこで、被告の主張する推計方法の合理性について検討する。
(一) 被告は、「アルザス」、「キヤロツト」両店において、原告のホステスに支給する歩合給は別表四の支給率表に従つて算出されているから歩合給支給額から歩合給支給の対象となつた飲食代金の額を算出することができ、右金額に基づいて「アルザス」、「キヤロツト」両店分の売上金額を算出しうる旨主張し、これに対し原告は、右支給率表の存在自体は認めるものの、現実には右支給率表に従つて算出される歩合給に奨励金を加算した金額を歩合給の名目のもとに支給していたから、歩合給支給額に基づいて売上金額を算出することはできない旨主張するので、まず歩合給の名目のもとに支給された金額が支給率表に従つて算出された歩合給に奨励金を加算したものであるか否かについて検討する。
証人肥後達男の証言によつて真正に成立したと認められる丙第四号証並びに証人土屋健吾の証言及び原告代表者山下輝治の尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)によれば、本件各更正に係る調査の際原告の代表取締役等が被告所部係官に対し、ホステスに支給した歩合給はあらかじめ定められた支給率に従つて支給されているから歩合給の額から逆に売上金額を算出しうる旨申し立てていたこと、原告は毎月「アルザス」、「キヤロツト」のホステス各数名に対し三、〇〇〇円ないし五、〇〇〇円程度の奨励金を支給していたが、右奨励金は歩合給とは別途に支給されていたもので、原告が記載していた歩合給支給の帳簿には、奨励金は記載されていなかつたこと及びクラブ、キヤバレー等の業界では歩合給と奨励金を合わせて歩合給という名目で支給することは通常なされていないことが認められる。右認定の事実によれば、原告が歩合給の名目のもとに支給した金額には奨励金は含まれておらず、右支給額は別表四の支給率表に従つて算出された金額であると認めるのが相当である。証人渡辺忠男の証言及び原告代表者山下輝治の尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(二) 従つて、ホステスに支給された歩合給の額から支給率表に従つて歩合給支給の対象となつた飲食代金の額を算出することは可能であるというべきである。そして、右金額に原告の帳簿に記載されていた総売上金額の総売上金額に係る飲食代金額に対する割合を乗ずることにより歩合給支給の対象となつた売上金額を求め、右金額に掛売上金額(原告の帳簿に記載されていた額)の歩合給支給の対象となつた掛売上金額(歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち掛売上に係るものの額に掛売上金額の掛売上に係る飲食代金額に対する割合を乗じたもの)に対する割合を乗ずることにより「アルザス」、「キヤロツト」両店分の売上金額を算出することは合理的であると認めることができる。
なお、原告は、「アルザス」、「キヤロツト」両店における現金売上金額の総売上金額に対する割合はおよそ一三パーセント前後において一定しているのであるが、被告主張の推計方法によつて算出された売上金額について右割合を求めると別紙計算書8記載のようになるから、被告主張の推計方法には合理性がない旨主張する。しかしながら、当事者間に争いのない原告の帳簿に記載された掛売上金額、現金売上金額に基づいて現金売上金額の総売上金額に対する割合を算出すると、昭和四五年七月期においては「アルザス」が二一・五三パーセント、「キヤロツト」が一三・八三パーセント、昭和四六年七月期においては「アルザス」が一二・六四パーセント、「キヤロツト」が一〇・八六パーセント(いずれも小数点第三位以下切捨て)となるところ、証人渡辺忠男の証言及び原告代表者山下輝治の尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)によれば、原告は現金売上の一部を帳簿に記載していなかつたことが認められるのであるから、現金売上金額の総売上金額に対する真の割合は右各数値を上廻るというべきであつて、およそ一三パーセント前後において一定していると認めることはできない。原告代表者山下輝治の尋問の結果中右認定に反する部分は採用できず、他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。従つて、原告の主張は失当というべきである。
3 所得金額
(昭和四五年七月期)
(一) 被告の主張1(一)のうち、申告所得金額、計上漏れ預金利息の額、支払利息損金認容額については当事者間に争いがない。
(二) 売上計上漏れについて
(1) 「アルザス」、「キヤロツト」の売上金額
「アルザス」におけるホステスに対する歩合給支給額が別紙計算書1記載のとおりであり、「キヤロツト」におけるホステスに対する歩合給支給額が別紙計算書2記載のとおりであることについては当事者間に争いがなく、前掲丙第三号証及び証人土屋健吾の証言によれば、右歩合給支給額から支給率表に基づき歩合給支給の対象となつた飲食代金額を算出すると「アルザス」分は昭和四四年一一月一一日から同四五年七月一〇日までが一、二一九万三、九三〇円、昭和四五年七月一一日から同年八月一〇日までが二〇一万九、五三〇円となり、「キヤロツト」分は昭和四四年八月一日から同四五年七月一五日までが三、八八五万九、三七九円、昭和四五年七月一六日から同年八月一五日までが二八四万九、〇八三円となることが認められる。そして、「アルザス」分の昭和四五年七月一一日から同年八月一〇日までの二〇一万九、五三〇円のうち昭和四五年七月期に属する金額はその三一分の二一である一三六万七、二二一円(円未満切捨て)であり、「キヤロツト」分の昭和四五年七月一六日から同年八月一五日までの二八四万九、〇八三円のうち昭和四五年七月期に属する金額はその三一分の一六である一四七万〇、一二六円(円未満切捨て)であると認めるのが相当であるから、歩合給支給の対象となつた飲食代金額は、「アルザス」分が一、三五六万一、一五一円、「キヤロツト」分が四、〇三二万九、五〇五円となる。右金額と当事者間に争いのない歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち掛売上に係るものの額、原告の帳簿に記載されていた現金売上金額、掛売上金額、現金売分飲食代金額及び掛売分飲食代金額並びに「キヤロツト」分の掛売上金額の年額換算の方法に基づき前記2(二)で述べた方法により売上金額を算出すると、「アルザス」分が六、七八九万三、三五九円、「キヤロツト」分が一億三、八三五万六、六五七円(いずれも円未満切捨て)となる(「キヤロツト」の昭和四四年八月一日から同月八日までの売上金額が原告の昭和四五年七月期に属することについては当事者間に争いがない。)。
(2) 売上脱漏額
当事者間に争いのない「モンテ」の売上金額及び原告の申告売上金額と前記認定の「アルザス」、「キヤロツト」の売上金額によると、売上脱漏額は一、八〇八万六、六五三円となる。
(三) 交際費等について
原告が交際費等の額を三九四万二、三〇六円と申告したこと、原告が厚生費科目で損金に計上した一七万五、五四六円が交際費等に該当すること、厚生費科目で損金に計上した一一〇万六、六八七円及び募集費科目で損金に計上した二六四万七、三〇三円が原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用及び原告の役員等が他人の経営するクラブ等において飲食した費用であること並びに交際費等の額が七八七万一、八四二円であるとされた場合に損金不算入額が二三一万八、六〇五円となることについては当事者間に争いがなく、措置法第六三条第五項によれば、原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用が交際費等に該当することは明らかである。
ところで、原告の役員等が他人の経営するクラブ等において飲食した費用について、原告は右飲食は他店のホステスを原告の経営する店舗に引き抜くためのものであつたからそれに要した費用は募集費としてその損金算入が認められるべきであると主張し、証人渡辺忠男及び原告代表者山下輝治も右主張に副う供述をする。
しかしながら、前掲丙第三号証によれば原告の役員等はほとんど連日のように他店で飲食したと認められるのみならず、同一の日に複数の支出がなされている日も少なくないと認められるところ、ホステス引き抜きのために連日のようにしかも同一の日に複数の他店で飲食することは通常考えられないことであるからそのすべてが原告主張のようなものであつたと認めることは到底できず、また右飲食のなかに原告主張のようなものが含まれていたとしても前記各供述によつてはどの飲食が右に該当するかを認めることができない以上、右飲食に要した費用全額が原告の役員等の慰安のための費用として交際費等に該当すると認めるのが相当である。
従つて、原告の交際費等の額は、原告の申告額三九四万二、三〇六円と前記一七万五、五四六円、一一〇万六、六八七円、二六四万七、三〇三円との合計である七八七万一、八四二円となる。
そして、交際費等の額が七八七万一、八四二円とされた場合に被告主張の計算のとおり損金不算入額が二三一万八、六〇五円となることについては当事者間に争いがないのであるから、右金額を損金不算入額として益金に加算するのが相当である。
(四) 以上述べたところから原告の昭和四五年七月期の所得金額を算出すると、二、〇八〇万二、一二一円となる。
(昭和四六年七月期)
(五) 被告の主張1(六)のうち、申告所得金額、計上漏れ預金利息の額、支払利息損金認容額については当事者間に争いがない。
(六) 売上計上漏れについて
(1) 「アルザス」、「キヤロツト」の売上金額
「アルザス」におけるホステスに対する歩合給支給額が別紙計算書4記載のとおりであり、「キヤロツト」におけるホステスに対する歩合給支給額が別紙計算書5記載のとおりであることについては当事者間に争いがなく、前掲丙第三号証及び証人土屋健吾の証言によれば、右歩合給支給額から支給率表に基づき歩合給支給の対象となつた飲食代金額を算出すると「アルザス」分は昭和四五年七月一一日から同四六年七月一〇日までで三、一一六万五、七二〇円、「キヤロツト」分は昭和四五年七月一六日から同四六年七月一五日までで五、三六六万七、七九七円となることが認められる。
ところで、前掲丙第三号証によれば昭和四六年七月期における各月の歩合給支給の対象となつた飲食代金額は「アルザス」、「キヤロツト」両店とも昭和四五年七月期における同じ月のそれをいずれも上廻つていることが認められるから、「アルザス」分の歩合給支給の対象となつた飲食代金額については昭和四五年七月一一日から同月三一日までと昭和四六年七月一一日から同月三一日までを、「キヤロツト」分の歩合給支給の対象となつた飲食代金額については昭和四五年七月一六日から同月三一日までと昭和四六年七月一六日から同月三一日までをそれぞれ同額として売上金額を推計することは原告の有利になるということができるので許されると解すべきである。
そこで、前記歩合給支給の対象となつた飲食代金額と当事者間に争いのない歩合給支給の対象となつた飲食代金のうち掛売上に係るものの額並びに原告の帳簿に記載されていた現金売上金額、掛売上金額、現金売分飲食代金額及び掛売分飲食代金額に基づき前記2(二)で述べた方法により売上金額を算出すると、「アルザス」分が一億〇、七一一万三、〇二六円、「キヤロツト」分が一億六、九二三万八、三九二円(いずれも円未満切捨て)となる。
(2) 売上脱漏額
当事者間に争いのない「モンテ」の売上金額及び原告の申告売上金額と前記認定の「アルザス」、「キヤロツト」の売上金額によると、売上脱漏額は三、五一五万四、八七五円となる。
(七) 交際費等について
原告が交際費等の額を三八六万〇、八〇八円と申告したこと、原告が福利厚生費科目で損金に計上した五三万八、〇九四円が交際費等に該当すること、福利厚生費科目で損金に計上した一万九、四五〇円と募集費科目で損金に計上した五五九万一、五〇六円が原告の得意先等事業に関係のある者等を接待した費用及び原告の役員等が他人の経営するクラブ等において飲食した費用であること並びに交際費等の額が一、〇〇〇万九、八五八円とされた場合に被告主張の計算のとおり損金不算入額が四二九万九、一八四円となることについては当事者間に争いがないのであるから、前記(三)判示と同様の理由により、交際費等の額は一、〇〇〇万九、八五八円、損金不算入額は四二九万九、一八四円となると認めるのが相当である。
(八) 計上漏れ仕入金額について
前掲丙第三号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる丙第五号証の一、二並びに証人土屋健吾の証言によれば、原告は山形、白鳥の架空名義で株式会社塩田屋から酒類等を仕入れていた(原告が右塩田屋から酒類等を仕入れていたこと自体については当事者間に争いがない。)が、右山形、白鳥名義の仕入れについては帳簿に記載していなかつたこと、昭和四六年七月期中の右山形、白鳥名義の仕入金額が少なくとも合計一二五万五、五四〇円あつたことが認められるから、これを損金に算入すべきである。
(九) 未納事業税損金認容について
当事者間に争いのない昭和四五年七月期の更正に係る所得金額及び申告所得金額について、昭和四五年法律第二四号による改正前の地方税法第七二条の一四第一項本文、同四九年法律第一九号による改正前の同条の二二第一項第二号、第二〇条の四の二第一項、第三項の規定により事業税の未納額を算出すると、別紙計算書9記載のとおり五一万一、二六〇円となるから、右金額を損金に算入すべきである。
以上述べたところから原告の昭和四六年七月期の所得金額を算出すると三、九二七万四、六四五円となる。
4 以上述べたとおり、原告の昭和四五年七月期の所得金額は二、〇八〇万二、一二一円、昭和四六年七月期の所得金額は三、九二七万四、六四五円であるところ、本件各更正は、いずれも右各所得金額の範囲内であるから所得金額を過大に認定した違法はない。
三、次に、本件各決定の適法性について検討する。
1 重加算税の各賦課決定について
(一) 原告が売上伝票を破棄したこと、売上金額に記帳漏れがあつたこと、売上金額の一部を別口預金に入金していたことは当事者間に争いがなく、証人渡辺忠男の証言及び原告代表者山下輝治の尋問の結果によると、別口預金は原告の代表取締役山下輝治名義の借入金の返済、仕入代金の支払、ホステスへの貸付等に利用されていたことが認められる。右争いのない事実及び右認定の事実に前記二3(八)で認定した原告が架空名義で酒類等を仕入れ、右仕入について帳簿に記載していなかつた事実を合わせれば、原告は本件各事業年度の法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき取引の事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき確定申告書を提出していたと認めるのが相当である。
ところで、原告は、別口預金は本来原告の負債たるべき前記山下輝治名義の借入金を返済するために設けられたものであつて、取引の事実を故意に仮装又は隠ぺいしたものではない旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠は存在しないし、仮に原告主張の事実が認められるとしても取引の事実を隠ぺいしたものであることに変わりがないのみならず、前述のとおり別口預金は原告主張の用途以外にも用いられていたのであるから、原告の主張は明らかに失当である。
(二) 右(一)に認定したところによれば、被告は原告に対し過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え重加算税を課すべきであり、ただその場合右税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいされていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいされていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を前記税額から控除すべきものとされている(国税通則法第六八条第一項)ところ、右(一)の認定によれば、本件各事業年度分の売上計上漏れの額及び計上漏れ預金利息の額は隠ぺいされていない事実に基づくことが明らかであるということはできないのであるから、昭和四五年七月期については右各金額の合計額から支払利息損金認容額を控除した一、八〇一万一、六六六円、昭和四六年七月期については右各金額の合計額から支払利息損金認容額及び計上漏れ仕入金額を控除した三、三七七万六、四三三円を下廻る本件各更正に係る所得金額の一部について賦課された本件各事業年度分の重加算税の賦課決定に違法はないというべきである。
2 過少申告加算税の各賦課決定について
本件各更正に原告の所得金額を過大に認定した違法がないことは前記二で判示したとおりであるので、これに附帯する本件各事業年度分の過少申告加算税の賦課決定にも原告主張の違法はない。
四、結論
よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 原健三郎 裁判官 北澤晶)
別表一
(昭和四五年七月期)
<省略>
(昭和四六年七月期)
<省略>
別表二
<省略>
別表三
<省略>
別表四
(1) キヤロツト
<省略>
(2) アルザス
<省略>
計算書1.
<省略>
計算書2.
<省略>
計算書3.
<省略>
計算書4.
<省略>
計算書5.
<省略>
計算書6.
<省略>
計算書7.
<省略>
計算書8
(昭和45年7月期)
「アルザス」
(67,893,359-47,914,373)÷67,893,359≒0.294
「キヤロツト」
<省略>
(昭和46年7月期)
「アルザス」
(107,113,026-81,988,065)÷107,113,026≒0.234
「キヤロツト」
(169,238,392-130,619,455)÷169,238,392≒0.228
計算書9.
<省略>